月紫光 GESSIKO -Ninja Mikazuki-

小説 月紫光

✶ 第二幕 CYBORG  NINJA ガモン誕生

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 手術屋がようやく珠を頑丈な超合金ケースに収め、ガモンに声をかける。
「ガモン様、まず腕を動かしてみてください」
 ガモンが両腕を垂直になるまで持ち上げ、肘を曲げた。
「今度は、脚を動かしてみてください」
 ガモンが脚を持ち上げ、膝を曲げる。すべての動きが極めてスムーズだった。ウラヌス隕石の霊力で、ガモンの神経が人工関節の回路に完璧につながり、ガモンの意思通りに動く。
「うむ、手術屋、上出来だ」
「ありがとうございます、ガモン様。一つご注意いただきたいのが、すべての筋肉が以前の十倍以上に強化されております。お慣れになられるまでは、意識して力を加減していただきますよう」
「分かった。注意しよう」
「では、立ち上がって、これを身に着けてみてください」
 ガモンが手術台から降り立つと、身の丈は二メートル近くに達していた。下着、半襦袢、袴、手甲などすべて群青色の忍者衣装を順番に着ていき、最後にやはり群青色の鎧を身に着ける。それだけで見る者を圧倒するオーラが発せられる。
 ガモンは戯れに左手で手術屋の胸倉をつかむと、そのまま軽々と天井近くまで持ち上げる。
「ガ、ガモン様、く、苦しゅうございます」
 ガモンは新たに身につけた力に満足し、手術屋をゆっくりと床に下ろしてやる。
「ご満足いただけましたでしょうか?」
 手術の一部始終は、無影灯に設置されたカメラを通じて〝実況中継〟され、オペレーションルームの大型モニターに映し出されていた。
 だだっ広いその部屋でただ一人、モニターを食い入るように見つめていたのは、ガシュー一族の重鎮のギュウジだ。自らも武闘派のNINJAである。
 ガモンの身体のいたるところが切り刻まれ、血まみれの筋肉や骨が露出しても表情一つ変えなかったギュウジだったが、手術を終えたガモンが手術屋を片手で軽々と持ち上げるのを見て、思わず深い満足の笑みを浮かべた。
「間に合ったな。これで、シウンの命運は尽きたも同然だ」
 ギュウジのもとには昨夜、二十歳の誕生日を迎えたシガツ一族の姫シウンが、生き神アラキリヒルトが住むコノへワナキ・アイランドに向けて旅立ったという知らせが届いていたのだ。
 まもなく、オペレーションルームのドアが開いて、ガモンが入ってきた。棟梁の椅子に座るギュウジの前に進み出て、両足を肩幅に開き、胸の前で右手の拳を左手のひらで包む。DENNOの最敬礼のポーズだ。
「おお、ガモン。手術はうまくいったようだな」
「はっ」
 ギュウジが手で制すると、ガモンはようやく最敬礼のポーズを解いた。
「体調はどうだ?」
「はっ。ウラヌス隕石の霊力のおかげで、何もかも快適です」
「手術が終わったばかりですまんが、早速、一つ仕事を頼む」
「心得ております。シガツ一族のシウンのことですね」
「さすがはガモンだ。話が早い」
 ガモンが時間を意識すると、眼球型コンピューターがガモンの脳に正確な時間を伝達する。
「今は午前三時過ぎですから、夜明け前には大菩薩峠あたりで追いつけます」
「そんなことまで分かるのか?」
「シウン出立の第一報以来、四人の部下に後を追わせております」
「抜かりがないな。では、頼んだぞ」
「はっ!」
 次の瞬間、ガモンの姿はオペレーションルームから消えていた。
 トチョウビルの地下駐車場にガモンが姿を現すと、停まっていた黒塗りの大型AIビークルの運転席から、黒装束の男が降りてきた。
「ガモン様、甲府までお送りいたします。どうぞ」
「いや、それには及ばぬ。ウォーミングアップがてら、この脚で走って行こう」
 ガモンはそう言うと、地上に出て甲州街道を西に走り始め、西参道口の交差点を超えたところで、上を走る首都高速道路四号線に軽々と飛び上がった。高さ十メートル以上の跳躍だ。
 首都高速は自動運転のAIビークルが等間隔の車間距離を保ち、時速80キロのスピードで流れている。突然、その高速道路に人間が現れ、男女のカップルが乗る一台のAIビークルの脇を並走し始めたのだ。ガモンはウインドウ越しに驚愕の表情を見せるカップルに手を振ると、さらにスピードを上げ、前を行くAIビークルを次々と追い抜いて行った。
 ちょうどそのころ、トチョウビルの屋上から夜空に向かって、一人乗りのドローンが音もなく飛び立った。搭載されたAIが四つのプロペラの回転度速度を変えたり、ローターの軸を微妙に傾けたりして、進行方向や高度、速度を調節する。コックピットに乗っているのは、濃紺のNINJA装束に着替えたギュウジだ。
「ガモンがシウンをどう始末するか、高見の見物と洒落込むか」

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